私が近年取り組んでいる「記憶」をテーマとした作品は、全て綿キャンバスにビニル絵具(Flashe)で制作されています。
ビニル絵具は現在の私の制作にかかせない素材で、日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパではフレスコ画の修復時に使われたり、古典技法におけるテンペラ絵具と同様に使用できる絵具としても知られています。油絵具との併用、混合技法でも使われます。
ビニル絵具はポリマー樹脂ベースの水溶性で、乾くと耐水性をもちます。顔料の粒子がとても細かく、絵具をたくさんの水にといて塗るグラッシという技法などでは、とても良い効果を得ることが出来ます。仕上がりはマットな質感で透明感があります。
私にとって素材とテーマの関係性は大変重要な意味を持ち、特に素材との触覚的な相性は、非常に深く制作のプロセスにかかわっています。
私はフランスでビニル絵具と出会い20年以上使用しています。この素材と出会ったことで、現在のテーマを掘り下げてこられたと思います。
ここ数年、私の表現したいテーマと素材のつながりがより近づき、合致してきたことを実感しています。